日本で西洋美術の作家についての地道な調査をしようとすると、
まず国内にある資料を虱潰しに紐解いて、
さらに今ならインターネットに上がっているデータ化された一次資料なども参照して、
とあれこれ手を尽くしても、たどり着ける情報にはどうしても限界があります。
そこでフィールドワークが必要になってくるわけですが、
ヨーロッパなんて、そう頻繁に行ける距離ではありません。
美術館で黙々と働いていた頃、所蔵されていたモーリス・ドニの作品を調査するに当たり、
めぼしい研究書にも出ていない、一次資料も購入時の証明書しかない、
カタログ・レゾネもまだ出版されていない、渡仏する時間も資金もない...
という八方塞がりの状態で、
藁にもすがる思いで送ったメールに返信をくださったのが
ドニの孫に当たるクレール・ドニさんでした。
クレールさんが快く提供して下さった資料のおかげで、
私のささやかな論考も何とか形になり、
またドニの作品の造形的な面への関心も持続しています。
そして先日、サン・ジェルマン・アン・レーのドニ美術館で
クレールさんの解説があるということで、
直接お会いできる機会を逃すまいと、2度目の美術館訪問。
クレールさんは、とてもおおらかで快活な方で、
展示室の作品を前に、ご自身の貴重な体験や思い出を交えながら
たっぷり2時間近く語ってくださいました。
前回来た時は気がつかなかった、というか制作の場に居合わせなければ
知りようがないモチーフやタイトルの意味など、わくわくするようなお話ばかり。
あっという間に閉館時間になり、他の方の質問が終わるのを待ってから、
左手にドニについて書いた紀要(日本語...)、右手に名刺を携えておずおずと自己紹介すると、
2年も前につたないメールであれこれと質問を送った私のことを覚えていて下さったのか、
あぁあなたねと言わんばかりに、親切にも自宅に招き入れて下さり、
ドニの蔵書が並んだ本棚(!!)の中から貴重な資料を見せていただきました。
日本からの訪問者ということで、ドニが高校生のときに読んでいたという日本についての本。
いわゆるジャポニスムの本ではありませんが、ドニと日本文化との最初の出会いが
高校生のときだったというのは驚きです。
帰り際、勤勉な学生にあげるために取っておいたのよと
ドニの日記3巻を手渡され、これはもう勤勉になるしかないと決意を新たにしました。
博士論文のテーマに引き寄せつつ、ブルターニュ地方でのドニの絵画制作について、
フランス語でも何か形にできるといいなと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿