1/30/2012

パリのグルメ案内

ロンドンから先輩が調査旅行にやってくるということで、
せっかくだからおいしいものを食べてもらおうと2回ほど食事をご一緒しました。

イギリス、私も一度旅行したことがありますが、
外食は冗談抜きでかなり悲惨でした...。
どうしてこんな普通の食べ物が..と思うものまで妙な味だったり。
そんな国に留学する苦労、お察しします。

初日の夜は、St Michelの小さなレストランLe Lutin dans le Jardin[庭の妖精]を予約。

店内の内装もとっても可愛らしいお店です。



アミューズはトマトとパプリカのムース。


前菜はアーティチョークのラザニア、フォアグラ・ソース。
両方とも大好きな食材です。

鱸のグリル、季節の野菜添え。
バジルソースがさわやかでした。

イチジクのムースとサブレ。果てしなく広がる甘さ。

実は5年前に一度ランチをしたことがあるお店だったのですが、
濃すぎない、上品な味付けのお料理も、
落ち着いた雰囲気も全然変わっていませんでした。


3日目のランチは、マレ地区へ。
いつもたくさん人が並んでいるカフェに行ってみることに。
Le Loir dans la Théière[ティーポットの中のヤマネ]という可愛い店名。
ちょっと検索してみたら、やっぱりマレの人気店なんですね。
日本語のサイトでも紹介されていました。




ホウレン草と卵とオリーヴとレーズンのタルト。巨大です。
この日はデザートまで辿り付けませんでしたが、棚の上にずらりと並んだ
レモン・タルト、チョコレートケーキ、シブースト、タルト・タタン....
どれも本当においしそうでした。

次回は絶対デザートを食べに行こう♪♪♪

Munck展 at Pompidou


すっかり書くのが遅くなり、もう会期は終わってしまいましたが
Pompidouで開催されていたEdvard Munch  L'Œil Moderne 展。
ノルウェーの画家ムンクの大回顧展です。


なぜか写真撮影OKだったので、セノグラフィを中心に展示風景を記録。
といっても人が多くてほとんど見ているお客さんの後姿の写真になってしまいました。

展示室に入って一部屋目には何の解説もなく年代も主題もばらばらの作品が数点。
どういう構成なんだろう...?と二部屋目に足を踏み入れると一瞬で謎は解けます。




こちらが二部屋目。左側の壁の作品を見比べてもらえると分かるでしょうか。
そう、一部屋目で見た数点とほぼ同じ構図の作品たちが同じような部屋の
同じ場所に掛けられているんです。
ムンクが、時を隔てて同じ主題を繰り返し描いたことを示すための工夫。
心憎い演出です。




三部屋目はムンク自身が撮影した写真の部屋。これが本展の見所のひとつでもあり、
展覧会タイトルが「L'Œil Moderne[近代の眼]」と題された所以でもあると思います。


デジタル化の波に乗り遅れ、つい先週経営破綻してしまったという老舗コダックの
カメラを愛用していたムンク。同時代のドガやボナールもそうですね。
コダックの小型カメラが19世紀末〜20世紀初頭の画家達の「近代的な視覚」の形成に
一役買ったことは間違いありません。


ムンクが親しい人々や自宅、自身の姿を写した小さなスナップ・ショットは
黒い額縁に収められ、ダークグレーの壁の薄暗い空間に
スポットライトで浮かび上がっていました。
とても美しい展示です。







そして四部屋目の入口には覗き窓。もちろん窓の中に見えるのはムンクの絵です。
美術館のようなある程度統一された展示空間でも、
作品が自分の視覚に入って来るシチュエーションは様々ですが、
こういうのも面白いなと思いました。






この部屋はムンクの作品に見られる独特の奥行き感覚に焦点を当てた展示。
切り倒された木の幹を描いた作品ですが、
最初に一目みた瞬間は光の球が転がり落ちてきているように見えました。




画面の周縁部に置かれた人物。ボナールにも頻繁に見られる構図です。
当時パリのギャラリーではムンクの展覧会が開催されていて、
ボナールはおそらくそれを見ていたと思うので、何らかの影響関係があるかもしれません。




これは解説パネル。マット装のように関連資料が埋め込まれていてかっこよかったです。 




モデルのRosa Meissnerを繰り返し描いた作品群。
写真に映っている意外にも数点展示されていました。
グレーの壁と赤い床というのもインパクトがありつつ、
作品鑑賞を妨げない良い方法だなと感心...。




このあたりが中盤になります。
世界を溶かすような灼熱の太陽、優しい夜空。


前景の影の入り方も、やっぱりボナールに通じるものがあります。

晩年ムンクは眼を病んでいますが、もしや直射日光の見過ぎが原因では...
と思うくらい堂々と真正面から捉えられた太陽。

小さなデッサンはランダムな展示。



室内画、外の世界などを巡って最後に自画像という、
展覧会の構成としては比較的オーソドックスな流れ。
正面から見据えるのではなく、あたかも体を捻ってこちらに振り返って
自身を見つめ返しているかのような自画像。




今回一番興味深かったのが、ムンクが病を患った自身の眼で見た世界......
というよりは眼球そのもの、その内部とも外部ともつかぬような不思議な
イメージを描いた晩年のデッサンです。


自身の“眼”、画家にとっての究極の自画像ですよね。







人ごみを避けながらゆっくりと作品を見終えて外に出ると、
すっかり日も落ち、雨に濡れたパリの石畳に街灯が反射して、
いつもよりも少し幻想的に見えました。


Bibliothèque Forney


最近行き着けの図書館はマレ地区の中心部を少し南に下ったところにある
パリの市立図書館のひとつBibliothèque Forneyです。
主に美術、装飾、工芸関連の文献を揃える図書館。





見て下さい、この素敵な外観!まるで中世のお城のよう。
15世紀後半に建設が始まった、パリ市内でもめずらしい中世の建物なのです。
建物自体の名前はl'hotêl de Sens。小さな博物館も入っています。
20世紀初頭に、この場所が図書館として使われるようになるまでには
大掛かりな改築など大変だったようですが、
いまではパリ市民や研究者たちが利用しています。



そして、建築が素晴らしいだけではなくこの図書館は使い勝手も抜群。
写真さえ持っていけば登録も簡単で、オレンジ色のカードをすぐに作ってくれます。
そして2階の閲覧室に入ると検索用のパソコンがずらり。
そこで読みたい本を探して、カードに書き入れ、司書さんに渡すと
座席を指定され、そこでおとなしく待っているとあっという間に本が出てきます。
(国立図書館は時間帯により30分〜1時間かかる...)


3階は貸出しOKの書籍コーナー。
ちょっとした図録など、借りられるのは嬉しいですね。


そして4階が充実の貴重書閲覧室。
部屋を取り囲む書棚は、19世紀の美術研究者には垂涎の書物が並んでいて、
さらっとカードに記入して申請すればすぐに手に取ることができます。
さらに、許可さえとれば写真撮影もほぼ問題なし。





夕暮れ時のシルエットが何とも麗しい。
小さい頃の私は西洋のお城や古い建築に心から憧れていて、
絵本などで得たイメージと自分の空想を掛け合わせて
理想の棲まいを描くことに熱中していたものです。








パリの中で最も郷愁と愛着を覚える建築。
それがまさに私の研究対象の書物を所蔵する図書館になっているとは...
運命を感じます。

David Nash展 at Galerie Lelong, Paris


パリ8区にあるGalerie Lelongで開催中の David Nash Black&Red 展を訪れました。
ちょうど今学期に受講しているゼミのThierry Dufrene先生が
カタログを執筆されたということで、授業中に展覧会情報を入手。

David Nashといえば、日本の美術館でも何度も個展が開催されている
イギリスの彫刻家。木をはじめとした自然の素材を用いた彫刻が有名です。
そういえば元職場の収蔵庫にも、巨大な木のオブジェが鎮座していました。
近作を展示空間で見てみたいと思い、善は急げということでオープン初日に早速来場。




会場のGalerie Lelongは1階が受付兼小さめの展示スペースになっていて、
版画やデッサンなどの平面作品が中心に並んでいます。
そして入口が別の2階は、かなり広々とした空間。




外からの写真では分かりませんが、2階には大きな彫刻作品が居並びます。
木の素材をそのまま生かしつつも、大胆に削り出された彫刻。
そして何とも言えない存在感を放つ巨大な漆黒の塊。


作品の置かれた空間全体に緊張感がみなぎっていて、
このアパルトマンの済ました外観からはとても想像できないような、
荒々しい場所に身を投じることができました。
周囲との調和というよりも、空間の中にぽっかりと開いた亀裂のような作品。
そして展示室そのものの、パリの中の異空間。


彫刻は物としての作品だけでは完結しなくて、
常に周りの空間との関係で成り立つものだから、
面白いし、難しいんだなと改めて実感できる展覧会でした。






パリにお住まいの方はぜひ、2012年の3月17日まで開催中です。
http://www.galerie-lelong.com/fr/expositions.html

1/19/2012

パリで一番好きな場所


その場所は、マレ地区の細い路地を進んで、進んで、


HIER POUR DEMAIN [明日のための昨日]という素敵な名前のお店の脇を通って、



視界が開けたところにあります。



そう、Place des Vosges[ヴォージュ広場]です。
調べてみると、アンリ4世の統治下で1612年に完成したパリで最古の広場だそうですが、
前の留学中に初めて訪れたときは、そんなことも知らず、散歩中に迷い込んで
「わぁ、なんて素敵なところなんだろう...!!」と。


ほぼ正方形の芝生の公園の回りを、赤茶色のレンガの建物がぐるりと取り囲んでいます。
青みがかったグレーの屋根には、屋根裏部屋らしき小さな窓。





この建物の一画にはかつてヴィクトル・ユゴーが住んでいて、
今は記念館として公開されています。
他にも、高級紅茶店や三ツ星レストランも入っているそう。いつか行ってみたいです。


建物の1階部分は回廊になっていて、そう、確か初めて訪れたとき、
コンセルヴァトワールの学生たちがカルテットを演奏していました。



私の写真では、この開かれたと同時に閉ざされた空間の感じがまったく伝わりませんね...。
でも、よく考えたら広場の全貌を内部から捉えるのは不可能。


エッフェル塔を嫌ったモーパッサンが、唯一その姿を見なくて済む
エッフェル塔の中のレストランに毎日のように通ったという有名な逸話がありますが、
空間の内部に入ってしまうと、全体を一目のうちに視界に収めることはできないのです。


だから、訪れる度にそのもどかしさを感じながら隅々まで見渡し、
しっかりと目に焼き付けて、記憶の中では正方形の美しい広場として保ち続ける、
そんな場所です。





広場でゆっくりと過ごしたら、
小さなトンネルを抜けてまた街の喧噪の中へ戻って行きます。




SAMOURAI in Quai Branly

今学期、ケ・ブランリー美術館の映画上映室で開講されている
現代アートにおける作家と作品、観者の関係をテーマにした大学の授業に出席していて、
授業の出席者は年間パスを作ってもらえたので、
早速展覧会をひとつ見に行ってきました。

ケ・ブランリー美術館がセーヌ河沿いにオープンしたのは2006年の6月。
なんだかつい最近のことのように思っていたけれどもう5年以上前のことなんですね。

いわゆるプリミティブ・アートという名称で括られた、
アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカの原始美術を展示する美術館。
シラク大統領が開館を後押ししたということもあり、
エントランスには彼の署名入りメッセージが刻まれています。

建築は、フランス人建築家ジャン・ヌーヴェル。
赤茶色の巨大な塊が柱に支えられて宙に浮いているというイメージ。
ガラスが特徴の彼の他の建築とは、少し違う雰囲気が漂う外観です。



上を見上げると、カラフルなキューヴがぼこぼこと。



そして企画展示室では、1月29日まで、日本の「サムライ」展を開催中です。
外国の方にとって、侍というのはとても気になる存在らしくて、
「侍とは何なのか?」とか、「侍は今もいるのか?」とか、よく真顔で聞かれます。

この展覧会も、侍好きなフランス人たちがカメラ片手に押し寄せていました。
子どもが多いのかなと思いきや、若いカップルや中年男性が結構いたように思います。

展示室に入ってみると、窓ガラスに色々な覆いがしてあって、
その影が展示台に写り込んでいて綺麗でした。




今年が辰年であることを意識してか、龍の飾りがついた兜や甲冑がたくさん。



写真に撮るとよく分からないんですけど、深紅の部屋に黒々とした兜がずらり。
こういう超洗練された展示は、ケ・ブランリーという感じです。
暗い中に、展示物だけをぱっと浮かび上がらせるというか。
リニューアルオープン後のオルセー美術館のクールベや印象派の展示室も、
そんな見せ方をしています。でも私はあまり好きじゃありません...。







この騎馬像の前で、天使みたいな小さい男の子が大興奮していて可愛かったです。



こちらは、常設展示室。
開館に当たっては、元々民族資料と考えられてきたものを美術館で美術品として
展示することに関して議論もあったようですが、
この展示空間は、美術品に見せるための行き過ぎた演出に映ってしまいます。
もちろん、ひとつひとつの展示品を美しく見せるための置き方や照明を
試行錯誤した結果だとは思うのですが。
完全にそれぞれに固有の文脈から切り離されてしまっている感が否めません。


展示台ケースや展示台もユニーク。ちょっとしたテーマパークです。

赤い部屋の奥深くに置かれた仏像。

地方ごとに壁で仕切られているわけではないんですが、
自然を意識したような土壁っぽい曲線で何となく導線が引かれています。



そして、やっぱり地域ごとに取り上げられている展示物の数の差が激しかったり
そもそも取り上げられていない地域もあります。
なので、展示室をぐるりと一周してみて抱いたのは、
「あ〜、世界のプリミティブ・アートを堪能した!」という充足感ではなく、
この展示室から溢れてしまった数多の文明や美術品、工芸品の存在を感じつつ、
近代的な意味での美術作品ではないものを扱うときの難しさでした。
おそらく、ケ・ブランリーに展示されている作品の多くは、
造形的な価値だけではなく、呪術的な意味合いが強いのではないかと思います。


エントランスに降臨した2人の侍。


エッフェル塔も近いです。