11/18/2012

Parisphoto 2012


緊縮措置に対する大規模なゼネストで欧州全体が揺れた11月14日の夜、
世界でも最大規模の写真のフェア、
Paris Photoがグランパレで16回目の幕を開けました。

長引く経済危機のさなか、美術市場は真っ先に影響を被るのでは...?
と考えてしまいますが、蓋を開けてみると今年のParis Photoは盛況で、
それどころか客足は前年比6%伸び、売り上げも上々だったとのこと。

15日から18日まで、4日間の一般公開での動員数は5万4千157人。
22カ国から計128のギャラリーと23の書店&出版社が参加しました。

ただし、Paris Photoは単なるアートフェアではなく、
テーマのある展示や、写真美術館等の新規収蔵品も公開され、
アーティストや批評家、学芸員、大学教授といった専門家による
トークイベント"Platform"も開催されます。

各ギャラリーの展示、あまりに膨大でひとつひとつ丁寧に見たわけでは
ありませんが、直観でいいなと思う写真家も何人かいました。



特にドイツの写真家Jessica Backhaus[Robert Morat Gallery]の
世界を翳め撮ったような写真が良かったです。
やっぱり写真集買えばよかったなぁ...



友人が働いているSerge Plantureux Galleryでは、
19世紀の写真家Gustave Le Grayによる貴重なダゲレオタイプの販売。
値段にたまげました..でも世界に1枚しかないですからね。



竹内万里子氏がゲスト・キュレーターとして招かれた2008年の日本特集の
余波がまだ続いているのか、日本人写真家の写真がとても多かったです。

日本からのギャラリー出店数もfiac!に比べて断然多く、
写真家や作品の数も去年よりも増えているような気がしました。
海外のギャラリーでも日本の写真家だけを扱っているところもあります。

特に森山大道はあちこちのギャラリーで見かけました。


石内都も多かったですね。

畠山直哉。


アルマーニは今年もAcquaというテーマで展示。
去年は杉本博司が出ていましたが、
今年も何人か日本人の作家の水の写真が選ばれていました。


こちらはスイスのFotomuseum Winterthurの新規収蔵作品。



アムステルダムのHuis MarseilleとLos Angeles County Museum of Art
の新規収蔵品もお披露目されていました。



名前を忘れてしまいましたが北欧のギャラリー。


そして中平卓馬。

Berlinの老舗写真画廊Camera Workも。


この写真家もすごく良かったんですが、名前メモするのを忘れてしまいました。
終盤意識が朦朧としていて...無念。




非常に良かったのは、ロンドンのArchive of Modern Conflict(AMC)の約4百万点の
有名無名の写真家のコレクションの中から、
"Collected Shadows"というテーマで選ばれた写真たちの展示。

アジェやブラッサイ、マリオ・ジャコメッリら有名写真家たちの写真から、
NASAの記録写真、どこかの家の引き出しに眠っていたような写真までが
ひとしく慎ましやかに並べられています。



かつてそこにあったものの記録としての写真が全面に押し出されていて、

眼前の写真たちを通して、時間と空間の迷宮にどこまでも沈んでいけそうでした。



しかし、気力も体力も眼力もすでに限界、
ひとつひとつのイメージはカタログを買ってじっくり楽しむことに。
でも無数のイメージが星のように散りばめられた展示空間もとても良かったです。


私の見た限り中平卓馬の白黒写真が二つのギャラリーで展示されていました。
ぜひ近作のカラーも持って来てほしいな。

11/16/2012

アルフレッド・ジャリのユビュ王 übü király


ハンガリーの劇団による、
アルフレッド・ジャリの不条理演劇「ユビュ王」を見て来ました。

1896年の4月に出版された戯曲の表紙には、
ジャリ自身の手によるユビュ王の肖像。
まあるい大きなお腹とちょっとまぬけな面構えが特徴です。



あらすじは、
卑劣で残忍で滑稽なユビュ・パパが、ポーランド王Venceslasを暗殺し
王位を簒奪して欲望と思いつきのままに悪事の限りを尽くすも、
Venceslasの息子Bougrelasによって追放されるという
どうしようもない物語。

ジャリによるユビュ王の構想にはモデルがいて、
それが高校時代の教師だったというから驚きです...。
 

今回の公演の舞台はオペラ座近くの広場に面した
Théâtre de l'Athénée-Louis-Jouvet。
由緒ある劇場で、創業は1880年、Eden-Théâtreとして出発しました。
その後幾度か劇場名を変え、建物も改修を加えながら
1896年にThéâtre de l'Athénéeの名を冠し、
最後の大規模改修を終えました。


美しいファサードに覆われたエントランス。
内部はイタリア風の劇場で、
天井にはインドのモチーフによる装飾が施されており、
ヒンドゥー教寺院の美学を取り入れ、エキゾチックな壮麗さで世に聞こえた
Eden-Théâtreの名残となっているようです。



奇しくも同年のパリで産声をあげたジャリの「ユビュ王」とThéâtre de l'Athénée。
本公演の舞台美術はいたってシンプルで、
コの字型に配された電飾がつり下げられたのみ。
あとは舞台中央に鎮座する紙のロールが、
演出の要ともいうべき役割を果たしました。


ユビュ・パパと皆から呼ばれるユビュ王のまるまるとしたお腹や、
その妻ユビュ・ママの誇張された胸やお尻の膨らみ、
その他役柄に合わせた体型や装身具を、
この薄い紙を広げて衣装のなかに詰めたり、
ぐるぐる巻きににしたりして表現していきます。




着ている衣装はみな同じねずみ色の服で、 紙を丸めて作った体型によって、
場面ごとにユビュ・パパやユビュ・ママはじめその他登場人物を演じる
役者さんが次々入れ替わっていくという演出も面白かったです。



ところで、ユビュ王の初演は1896年12月10月。
演出はリュネ・ポー、舞台装置や衣装はナビ派の画家ボナールやセリュジエら、
そして音楽はボナールの義弟クロード・テラスが担当。

初演では、ジャリ自身が聞き取れないほどのか細い声で導入文を読み上げ、
ユビュ・パパの第一声「Merde! [くそったれ!]」の声で始まった
前代未聞の不条理劇は、のちのちまで語られる大スキャンダルとなったそう。



新聞でも賛否両論飛び交ったものの、
詩人マラルメが自身の飼い猫に
「ムッシュー・ルビュ」「マダム・ルビュ」と名付けたり、
ボナールが飼い犬に「ユビュ」と名付けるなど、
一種の社会現象まで巻き起こした様子。

1898年にはボナールが制作したマリオネットによる上演も行われています。

とりわけ同時代および後世の芸術家たちに与えた衝撃は本物だったようで、
上演にも関わったボナールがユビュ王の暦を作ったり、
ルオーやエルンスト、ミロといった画家たちはユビュ王の肖像を残し、
ルオーに至ってはヴォラールとの合作で版画集まで制作。
ブルトンを中心にしたシュルレアリスとたちにも熱烈に受け入れられました。

 ジャリのイメージに近いものから、かけ離れてしまったものまで、
「ユビュ王展」をやったら面白そうですね。

ボナールによるユビュ王をモチーフにしたアルファベット。



ボナールによるユビュ王の暦。(1899年)



エルンスト《ユビュ皇帝》(1923年)



ヴォラールとルオーの版画集『ユビュ親爺の再生』(1932年)



ミロ《ユビュ王 : 戦争》(1966年)



11/11/2012

Jeune Création 2012


今年もパリのCENTQUATREで開かれたJeune Création展に
マリヴォーさんを誘って出かけました。
パリのはずれにあるので一人で行くのはちょっと不安なところです。

一年ぶりの再訪...エントランスの小さなネオンたちは変わっていません。


今年もAssociation Jeune Créationの公募によって選ばれた、
約60人のフランス国内外の若手アーティストたちの作品が一同に会します。

ちなみにこのAssociationというのはフランスに多数存在する市民団体で
日本でいうところのNPO法人に相当する非営利団体です。

Jeune Créationは、戦後間もない1948年にJeune Peintureとして設立され、
1999年に改名、毎年開催されている現代アーティストの国際公募展は
63年以上の歴史があるそう。

現代アーティストの制作活動の支援と、
プロ・アマチュアを問わず現代アートに関わる人々の交流促進を目的としており、
運営委員会と審査委員会のメンバーは毎年の展覧会が終わるごとに
新たに選出されるということで、無用な弊害を防ぐための対策も万全です。


昨年の公募展に引き続き、今年の展覧会もとても見応えがありました。

こちらは地図の地名だけを切り抜いた作品。


監視カメラの映像から抜き出されたイメージ群。
なぜか日本の光景が多かったです。


IKEAの家具を大胆に配したインスタレーション。



くみ上げられた木のオブジェの中に機械が設置されていて、
一定時間立つと、全体が持ち上げられた状態から、
ガタンと音を立てて落ちるという作品。
私は終止その音に驚きっぱなしでした。



樹の枝のあいだから漏れる光を捉えた映像作品。 

山に関するイメージが集められています。

白い正方形を配したインスタレーション。


こんな感じで、まだまだたくさんあるのですが、特に印象に残った作品だけを
紹介してみました。キャプションをメモし忘れたのは失敗。

せっかくCENTQUATREまで来たので少し内部を散歩。
奥の方では別の展覧会Par Natureも開催されていました。
この階段は登れるようになっていて、羽根の中央に"I'm free"と書いてあります。 

本物の桃(りんごだったかな...?)を使ったインスタレーション。
半分以上が腐りかけていて大変な異臭を放っていました。
会期はまだまだ続くけど大丈夫なんでしょうか...。

2階部分は多目的ホールのようになっていて、
ダンスの練習をしたり、おしゃべりに興じる若者でいっぱい。


そしておそろしかったのがこちら、Festival Temps d'Imagesの一環で
展示されているDaniel Glaserとmagdalena Kunzというスイス人ユニットによる
インスタレーションSpeechless.......。



旅行者の格好をした7人の人物が床に座り込んでいて、
もちろんつくりものなのですが、顔の部分に施された凹凸と
そこに映し出される顔のイメージとが相俟って
まるで生きているようにみえるというものです。

会場の隅っこにさりげなく置かれていて、
最初はうわ、こんなところに大量のおじさんが...と心底驚いてしまいました。


11/09/2012

和のリフレッシュ


学会発表お疲れ様会と称して、ヴュイヤールさんとお寿司屋さんに繰り出しました。
向かったのは16区のSushi Gourmet。パリに来てからずっと気になっていたお店です。

フランスでも寿司は日本食の代名詞になっていて、
スーパーでお惣菜として売られているのを見かけたりしますが、
ちゃんとしたお寿司を食べられるお店はまだまだ少ないです。


席について、早速注文。やっぱり握り寿司ですね。



期待通り......いや、期待以上に色々な種類のネタが出てきて、
マグロ、サーモン、タイ、アジ、イカ、サバ以外のお魚が
何かよく分かりませんでしたが、おいしくいただきました

お寿司にサラダとお味噌汁がセットになって15ユーロ(約1500円)なので
なかなかのコストパフォーマンスです。
またお寿司が恋しくなったらここに来ようと思います。

ところで、食べ物のためだけに16区まで行ったわけではありません。
お寿司で満ち足りたあとは、マルモッタン美術館で開催中のアンリ・ルアール展へ。




アンリ・ルアールは、画家として少なからず油絵を残していますが、
実業家として成功し、印象派以降の画家たちのパトロン&コレクターとして有名です。

今回は、ルアールの油彩作品に焦点を当てた展覧会で、
正直に言うと特筆すべきところはあまりない作品ばかりでしたが、
教えを受けたコローの影響は大きく、
印象派との関連やナビ派風の室内画もみられました。

個人的に嬉しかったのは、
なんとヴィンタートゥール美術館蔵メダルド・ロッソ作の
アンリ・ルアールの彫刻に再会できたこと。
光溢れるマルモッタン美術館の一室で、ひときわ存在感がありました。

ちょうど展覧会を訪れる数日前に出会った日本人の方に、
世田谷美術館でヴィンタートゥール展を見て、ロッソの作品が良かったと
言っていただいたばかりだったので、縁を感じます。



展示を見終えて、駅に向かう途中Yamazakiのケーキ屋さんを通り、
気がついたら中に吸い込まれていました。

日本のケーキ屋さんではあまり選ばないショートケーキ、
パリのお菓子屋さんには存在しないので、せっかくだから食べてみることに。



クリームはより濃厚で、スポンジもしっかりしていて、なかなかのヴォリュームです。
お寿司もケーキも、材料が違えばやっぱり別物。
でもパリ版もおいしかったです。

すっかりこのコースが気に入ってしまったので、
今度マルモッタン美術館に行くときにはまた...。
次は抹茶ロールにしよう。


11/06/2012

さぬき娘たちのパリ放浪


12月の初頭、高校の同級生たちがさぬきの地からパリにやってきました。

実質2日半という短いパリ滞在でしたが、ルーヴル、モンマルトルの丘、
エッフェル塔、凱旋門などなど主要なスポットには案内することができました。

大学に入ってからの友人や教授、美術関係の方はパリにいらっしゃることが
よくあって、ご一緒する機会も多いのですが、
高校の同級生というのはまた新鮮です。

しかも普段はすっかり標準語のしかも丁寧語しか話さない私ですが
(無理をしているわけではなくそれが一番自然体で楽なんです)
ひさびさの地元っ子たちを相手に方言を召還しなければなりません。

気心の知れた友人たちとはいえ、
それぞれ個性の強い、いい意味で変な子たちなので、
どこに案内したものか迷ったりもしましたが、
とりあえずリクエストに答えてルーヴル美術館へ。

名画コースはほどほどにして、
珍妙なオブジェが並ぶ美術工芸コーナーに案内するととても喜んでもらえました。



サイ・トゥオンブリーの天井画がさわやかです。 

ひさびさにルーヴル美術館でゆったりした時を過ごしました。



美術館を出てはらぺこのさぬき娘たちはモンマルトルの丘のビストロへ。
サラダやオニオンスープの前菜、牛肉の赤ワイン煮込みやステーキのメイン料理に
デザートまでついて18ユーロくらいだったかな?
とてもお得なコース料理でした。


その後はサクレ・クール寺院へ。
実は中に入ったことがなかった私も初めて足を踏み入れてみました。 

 寺院から見下ろす夕暮れ時のパリ。


夜はエッフェル塔へ。
到着したときにちょうど光の点滅がはじまりました。
わざわざ近くまで見にやってきたのも久しぶりです。




翌日は、ヴェルサイユ宮殿から戻ってきたさぬき娘たちと合流してパリを散策。

クレープを頬張りながら寒空の下を歩き、
サン・ルイ島でブティックなどをのぞきながらマレ地区でクスクスのディナー。

夜は凱旋門も近くまで見に行ってみました。 



最終日はあまり時間がなかったのでランチだけ。
私がショコラ・ショー対決でパリNo1の味と(勝手に)認めた
ボン・マルシェ近くのSip Babyloneというレストランへ。

予想通りランチもおいしかったのですが、すごいボリューム....。

かぼちゃベースの秋のスープ。これだけで胃は満たされました。

さらにメインの仔羊のローストと、これでもかと盛られたいんげん豆....
半分の量で、値段をもう少し安くしてくれるといいのにな。

まわりのフランス人たちもさすがに食べきれていませんでした。


フランス料理で、ここは絶対おいしいくて味も重すぎず
量もちょうど良いという日本人好みのお店、なかなか見つけるのが大変です。