2/27/2012

ドニとジャポニスム


ナビ派とジャポニスムに関しては、
そして大胆な構図、シルエットの効果、俯瞰する視点、平面的な構成など
分析の着眼点そのものも紋切り型ができてしまっています。


ですが今回、画家モーリス・ドニが実際にどんな浮世絵を持っていたか、
どの展覧会を見たか(日記にほぼ記されています)、
その展覧会にどんな日本の作品が展示されていたか、
すべて調べ上げたうえで、日本美術がこの画家にどれほどの影響を与えたか
分析してみるという機会に恵まれました。



そもそも、画家が描くフォルムがどこから来ているのか、
この問いは私の博士論文のテーマとも根本的に繋がっていますし、
何より19世紀末のパリでは装飾美術とジャポニスムは密接に結びついていました。

まだ調査は始まったばかりですが、来年9月の発表に向けて、
こつこつと取り組みたいと思います。

久々に作家の一次資料に触れ、心が踊りました。

2/26/2012

ドライブ大好き





アムステルダム


最終日は1日アムステルダムで過ごしました。
2回目の訪問なので少し安心感があります。




ホテルが飾り窓地区とダム広場の中間地点にあり、
夜散歩すると妖しいネオンが運河に映っていました。



今回の旅の目的のひとつ、開館したばかりのエルミタージュ美術館分館。
開館記念展は、やはりオランダの巨匠、ルーベンスとファン・ダイク展。
建物の外観も、展示室も、隅々まで新品です。

運河に面した正面入口。



3日目の朝は、ゆっくりと散歩しながら、アンネ・フランク・ミュージアムへ。


思わず白黒モードで撮ってみたくなる街並み。




ミュージアムの外観は、ものものしい感じになっています。
5年前は、長蛇の列に阻まれ断念しましたが、今回は入ることができました。


時代を物語る資料、アンネの直筆の日記やメモ、様々な人の証言、写真、
何よりも空間があまりにも剥き出しで、
荷物が運び出されたしまったままの状態にしておきたいというアンネの父の判断が、
胸に刺さりました。


西教会の前にはアンネの銅像が佇んでいます。


次に向かったのが、Huis Marseilleで開催中の畠山直哉さんの展覧会、Natural Stories。


シエル・トンベ、ブラスト、テリル、アトモス、ライム・ヒルズといった
見慣れたシリーズが1階から3階へと続きます。


ブラストのシリーズでは、額に収められた写真を見ていると突然光が落ち、
連続写真のプロジェクションが始まるという見せ方がとても劇的でした。
肉眼では決して見ることができない瞬間が、写真を通して見えるようになる驚き。


今まで、畠山さんの写真は日本国内の美術館でも何度か見る機会があったし、
畠山さん自身の文章やインタビューなども読んで、写真を語る言葉がとても明快なので
何となくスタイルや、こういう写真を撮る人なんだという私なりの理解はありました。


でも、津波の跡を写した写真に関しては、それが展示されていることも知っているし、
それを見なければという気持ちで来たのだけれど、
正直なところ展示室に足を踏み入れるときに、
これまでの理解や解釈をもって作品と対峙するという姿勢を保つのが
とても難しかったです。


ただ、細部まで鮮明に写し出された写真には、
映像で見るよりもまざまざと津波の時間が流れ込んできているようで、
また当たり前のように穏やかで美しい空と海面には、
3月11日以降も否応なしに月日が流れていることを実感しました。


畠山さんは常々生まれ故郷が自分の視覚体験の原点であると語っていましたが、
震災前の地元を写した風景を見ていると、
低い堤防や、そのすぐ脇を走るセメントの道路、
点々と建つ民家や道行く老人、光の調子など、
同じ海沿いというだけでここまで、
というくらい私自身の故郷の風景に似ていて、
それは私が感情移入するというよりも、
畠山さんの写真の方がすっとこちらに入ってくるような感覚でした。


私も18年育った瀬戸内海の風景が自分のものの見方に染み付いていると思いますが、
もしもその場所が無くなったとき、変わり果てた姿を目の当たりにしたとき、
何か変わってしまうのだろうかということをずっと考えていました。







午後は郊外のコブラ美術館へ。
ここは、個人的な思い入れがあって訪れてみたかった場所です。
地図を忘れて思い切り道に迷いました。

折しも、クレーとコブラ展を開催中。


コブラとは、戦後の20世紀半ばに結成されたオランダの前衛グループ。
会場構成は、東京国立近代美術館でのクレー展を彷彿とさせるジグザグの壁です。
どこでもドアがあったら、クレー展企画者の方を召還したかったです...!!
今度会った時にお話しよう。

いくつかのテーマに沿って、クレーとコブラの作家たちの作品が並べられていました。

コブラの特徴は、明るい色彩と、荒々しい筆致。

 クレーの作品の充実ぶりには眼を見張るものがあります。




その後、駆け足でミュージアム広場まで戻って、久々のゴッホ美術館。
ここでの発見は、19世紀のパリ版画展で見つけた、
ボナールの書込みがある試し刷り版画。色のトーンが細かく指示されていました。
画像が載っていることを確認して、この旅4冊目のカタログを迷わず購入...!!





最後は、改装工事中のアムステルダム国立美術館。
美術館前にミュージアム・ショップが建っていたり、仮説小屋があったり、
謎の「I amsterdam」オブジェができていたりと何だかごちゃごちゃしていましたが
入口は左側。今はおそらく改装が終わった空間で主要作品だけを見せているんだと思います。



最初の空間は、大航海時代のオランダの繁栄ぶりのアピール。
大砲とか船とか戦利品とか....


展示空間自体はとても綺麗です。


2階へと続く階段。



2階は絵画作品の展示室。
何と壁に装飾模様が入っていました。
しかも壁紙ではなくすべてペンキで塗ってあります。


明るく、広々としていて、作品に集中できました。
何よりも人が少ないというのが一番の理由かもしれません。



オルセー美術館にしても、アムステルダム国立美術館にしても、
おそらくホワイトキューブから転じて、展示空間を、作品が制作された当時の
雰囲気に近づけるという意図があるのだと思いますが、成功しているのかどうかは
タイムマシーンでも発明されない限り確かめられませんね。





最後のサプライズが夜警。黒の背景に、LEDでピカーっと照らし出されていて、
昔見た記憶や、図版のイメージが吹き飛びました。
ちょっと明るすぎなのではないかな...。







そんなこんなで、内容の詰まった展覧会を1日に4つも5つも訪れるのは
いかがなものかと自分でも思いますが、
それぞれの作品の前ではひたすら集中して、
移動中に頭を切り替えるという術を身につけられたように思います。

ともあれ、こんな長いブログを最後まで読んで下さった方、
ありがとうございました。



2/25/2012

デン・ハーグ


2日目はデン・ハーグ。
アムステルダムから電車で小一時間です。
結構大きい街なので、美術館を駆け抜けるだけの滞在になりました。


移動中に眼に飛び込んできたカラフルな建築。

湖畔のお城。澄んだ気持ちになります。

この湖のほとりに建つのがマウスリッツハイス美術館。
フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》やレンブラントの肖像画を所蔵しています。



展示室も壁紙からカーテンに至るまで洗練されていて、
オランダの名士たちがパトロンとして画家たちを支え、
そして何代にも渡ってこの美術館を大事に守り育ててきた文化が伝わってきました。


《真珠の耳飾りの少女》は、遠くからは慎ましやかな少女に見えるけれど、
近づくにつれて瞳や唇の描写に引き込まれ、艶かしい女性に変貌するような印象。


次にやってきたのは少し中心部からは離れたところにある市立美術館。
こちらも水辺に建っています。

まず、向いの現代美術館のカフェで腹ごしらえ。

オランダ名物のクロケットと、チーズと生ハムのミニ・サンドイッチ。
久々のコロッケが(そういえばパリでは見たことない)感動的においしかったです。

たくさんの人でにぎわうカフェ。照明やインテリアにセンスが光ります。




現代美術館では、MATTHEW DAY JACKSONの展覧会を開催中。
アメリカの新進気鋭の作家のヨーロッパ初個展と銘打たれていました。

政治的な関心と、人間の身体をめぐる探求、
そして実際に作品を制作するときの素材使い、完成度、
非常にバランスのとれたアーティストだなと感じました。





市立美術館の方は、非常に広く複雑な空間で、企画展が3本、
加えて常設展が網の目のように広がっています。


まず「モンドリアンとデ・ステイル」展から見ることに。
デン・ハーグの市立美術館はモンドリアンの一大コレクションで有名です。

絵画作品だけではなく、家具や建築模型、衣服デザイン、実寸大の室内再現展示など
デ・ステイルのデザインを身体で体験するための工夫が凝らされていました。






こちらのカフェも座ってみたいと思わせる空間で、ついつい休憩してしまいました。

建築はオランダの現代建築家、Hendrik Petrus Berlage.。
タイルと、カラフルな壁面、そして迷路のような空間構成。




そして、充実したドールハウスのコレクションにも眼を奪われました。


アート作品のミニアチュール。

ドールハウスは大小様々、この他にもたくさん展示されていました。
「オランダの至宝 ドールハウス」展とか日本で開催したら成功しそうですね...。


2階では、Akexander Calder展。

こちらも台座や壁の色など、カルダーの作品を効果的に見せるための惜しみない工夫が。


そして驚いたのが、モンドリアンのパリのアトリエの実寸代での再現。
しかも実際に中に入ることができます....!!!!!


カラフルで幾何学的な装飾。
モンドリアンの絵の中に入ったみたいでわくわくしました。


こちらは、名前をチェックし忘れた現代作家のインスタレーション。