渡仏直前の2日間、夜行バスで1泊2日の越後妻有訪問。
早朝と深夜の長岡駅前でひとりバスを待っている間は心細かったけど、
3年前に初めて訪れたときは足を伸ばすことができなかった場所を
車で案内してもらい、
山と海の幸、そして新潟のお酒も堪能して、
心に残るトリエンナーレ訪問となりました。
長岡からの直通列車で十日町駅に着くと、
フランス人アーティスト、Alberola氏デザインの電車が。
お土産ショップにも、彼の版画ポストカードが売られていました。
駅まで迎えに来てくれた知人の案内で最初に向かったのはタレルの光の館。
直島や金沢で体験したことはあったけれど、和室に落ちる光というのはまた別の趣き。
ここに泊まって、空の色の移ろいをずっと眺めていられたら心地良いんだろうな。
3年後には仲間を募って実現したいものです。
そして開会式の混雑が引いた頃にキナーレへ。
エントランスを潜り、待ち受けていたのは
ボルタンスキーの巨大インスタレーション 《No Man's Land》
積み上げられた衣服と、機械的にそれを掴んでは落すクレーン、
低いコンクリートに囲まれた空間内部に響く心臓の音。
作品としては、2010年のパリのモニュメンタ「Personnes」で
グランパレを舞台にすでに実現されており、
今回の展示では、半分屋外ともいえる四角い中庭を覆い尽くしています。
ボルタンスキーはホロコーストに関する作品で知られますが、
新潟の地でこのインスタレーションに対峙すると、
3月11日の大震災で犠牲になった無数の命の存在と不在が迫ってくるようでした。
実際に衣服の一部は被災地からもたらされたものだとか。
空っぽになってしまった無数の衣服と、
そこに立ち尽くす私たちの身体の内側まで入り込んでくる心音。
しばらく動けませんでした。
洗濯も何もされていない衣服の山からは、特に雨の翌日などは
匂いが立ち上りさすがに苦情の声もあったようですが、
北川フラム氏は「匂いもアートだ」と一蹴したそう。
キナーレ内部の展示空間は、軽やかな現代アート作品が多かったように思います。
ちなみにキナーレには明石の湯という温泉施設もあり、
夜にはここで日本滞在最後の大浴場を満喫しました。
新潟名物へぎ蕎麦と野菜の天ぷらで腹ごしらえした後は、
徒歩圏内の商店街を散策。
上西エリカさんの《Growing Memories》に、切実な目標を一筆書いてきました。
世界平和を祈っている人が多くてみんな立派だなぁ...。
十日町駅から2駅の下条駅では、小沢剛さん企画の油絵茶屋再現。
去年、留学後に開催された浅草の方を見逃していたので行けて良かったです。
明治7年に日本で初めて開催された油絵の展覧会。
まだ、油絵や日本画という概念すらなかった時代、
今となっては知る由もありませんが、当時の観衆の反応が気になります。
みかんぐみの新作は茅葺き屋根の塔。
2日目は、松之山温泉街をさらに登ったところにある上湯へ、
絶対自分では運転できなさそうな道を車で連れて行ってもらいました。
ローレン・バーゴヴィッツの収穫の家。
イタリアからボランティアでやってきたというこへび隊の青年が出迎えてくれます。
ロビン・バッケンの《米との対話》
小林一茶の句をモールス信号にして稲に送るというというのは謎でしたが、
光ファイバーを織り込んだ畳の展示は美しかったです。
ジャネット・ローレンスの《エリクシール/不老不死の薬》
この地に伝わる薬草学をもとに、地元の植物を焼酎につけ込んだ瓶が並びます。
ちなみにこの3作家はみなオーストラリア出身の女性アーティスト。
越後妻有の自然や伝統への感受性に共通するものを感じました。
さて、上湯にやってきた一番の目的はアブラモヴィッチの夢の家。
入口は向日葵や紫陽花で彩られたほっとする空間。
エントランスのアブラモヴィッチ自身の言葉にもありましたが、
この夢の家は、現地の人に受け入れられ、愛をこめて手入れ・運営されていて、
宿泊者と見学者を同時に受け入れる苦労は察して余り有るものがありますが、
ぜひこれからも「日常に組み込まれた現代アート」として、守っていってほしいです。
今年は、ここに泊まった人々の夢の記録を集めた『夢の本』が出版されています。
私は、やっぱり青い部屋がいいかな...。
外に出ると、うだるような暑さのなか、大地を埋め尽くす緑は圧倒的で、
遠方にかすむ山々の青いグラデーションが風景に奥行きを与えていました。
キョロロの向かいには「美人林」
蚊さえいなければもっとゆっくりしたかったのですが。
松代ではVilmouth先生のカフェ・ルフレでランチ。
里山の食材を使った素朴な料理、野菜だからいいよねと全種類制覇しました!
午後はカフェの相席で仲良くなったデザイナーの女の子を口説き落して、
タクシーで山奥の清水・松代生涯学習センターへ。
川俣正氏による「中原佑介のコスモロジー」
故中原氏から寄贈された3万冊の蔵書を使ったインスタレーションと聞き
どうしても訪れてみたかったのです。
会場は旧清水小学校の2階体育館。
バベルの塔さながらに書物が積み上げられています。
本を手に取ることはできませんが、背表紙や表紙を眺めながら
中原氏の思索の宇宙へと導かれます。
周辺部には、貴重な写真や資料がずらり。
「人間と物質」展の会場記録写真。
塔の内部ではインタヴューが流れていたのですが、
展覧会の作品は、散りゆく桜のようにやがて撤去されるから人々の心を掴むという
言葉が印象的でした。
農舞台の河口龍夫氏による《関係-黒板の教室》
抽き出しの中には小さなオブジェがしまわれていて、トポフィリ展を彷彿とさせました。
今回の越後妻有トリエンナーレ訪問も、やはり時間と移動手段の制約がありましたが、
未見の作品や今年新たに制作された作品を巡ることができました。
気付けば、Alberola氏、Vilmouth氏、川俣正氏とパリのボザールの教授陣の
作品に出会う機会が多かったような...。
そして何より、地元の方々に案内してもらい、休憩所で話を聞いて思ったのは、
新潟の人々が芸術祭を受け入れ、愛し、誇りに思っているということ。
今年の新作や、作品の位置情報、制作年など熟知していて、
本当の意味で彼らのトリエンナーレになっているのだなと感慨深かったです。
ヴェネツィアやカッセルにはない側面ですね。
私は2日間の滞在中、
アートではないけれど、里山に聳える鉄塔にすっかり心奪われてしまいました。
最後の晩餐は、のどくろやくろえびといった東北の魚介類をつまみに、
北雪大吟醸YK35(おいしかった!)、越乃寒梅その他記憶が定かではありませんが、
新潟のお酒をたくさんいただきました。
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