7/23/2012

室生山上公園芸術の森


京都から日帰りで奈良県は宇陀市に小旅行に出かけました。
女人高野として有名な室生寺があるところです。

京都駅から近鉄京都線と大阪線を乗り継いで、約2時間弱の道程。
室生口大野という小さな駅の前からバスが出ているのですが、
乗客は地元の学生の男の子が2人と、観光客らしき人が2、3人。

バスは家が立ち並ぶ地区を抜けて、渓流沿いの道路をぐんぐん走ります。
山の緑は濃く青々と茂り、傾斜の急な山肌を包み込んでいました。

室生寺入口のバス停に着いて、
参拝に来たバスの乗客たちは揃ってお寺の方に向かい、
私はひとり反対側の坂道を登ります。

水田の黄緑色と山の濃緑が織りなす美しいコントラスト。




目的地は室生山上公園芸術の森
その名の通り山の上にあるので、
万年怠けものの足たちは途中何度かくじけそうになりました。
この地域は地すべりが深刻な問題で、訪れた日も山の中腹で工事が進行中。



あまりの暑さに写真も朦朧としています....。

「芸術の森」は、そんな地すべり対策の跡地を利用して、
イスラエル出身の彫刻家ダニ・カラヴァン氏が設計した公園。
過疎化が進む地域の活性化という希望も託されているそう。




ホームページを見てもらえれば分かりますが、公園内にはそれぞれ名前のついた
12の大きなオブジェがあり、いくつかは地下にもぐったり、上を歩いたり、
中に入ったり、登ったり、自分の身体で体験できます。




「螺旋の竹林」の渦巻きを降りていくと....



ポルトボウのベンヤミンへのオマージュもこんな感じなのかな...
いつか行ってみたいです。


「螺旋の水路」奥に一本の木があるのがいいですね。

公園にはいくつかの池があって水路が流れており、
そこに映った雲と太陽がとても神秘的でした。







「太陽の塔」内部。影がくっきりと光を切り取っています。


「太陽の塔の島」







鴨の親子。子どもたちがちょこんと泳いでいるのがとても可愛かったです。




少し小高い位置に立って見渡せば、地すべりなんて想像もできないほど
穏やかな公園が広がっています。
公園になる前のこの場所がどんな状態で、
どういう段階を経て今の状態に辿り着いたのかは想像を巡らせるしかありません。

カラヴァン氏が初めて室生村にやって来たのは1998年のこと。
それから2006年の完成まで16回にも渡って足を運び、
配置や大きさのシミュレーション、工事の進捗状況確認を行ってきたようです。

おそらく最初は山肌も露わな荒れ地だったことでしょう。
いま私たちの眼に映る公園は、幾何学的なオブジェと
周囲に広がる自然との均衡が取れた空間です。

ひとつひとつのオブジェやその配置に込められた意味や
(「意味」という言葉が正しいのかどうか分かりませんが)
それがそこに置かれる必然性について、
すぐ側に控える室生寺の存在や、緯度、太陽の道筋までも含めて
カラヴァン氏が地球.....宇宙規模の緻密な考察を重ねていることは確かです。

不勉強な私はその具体的な内容を調べるまでには至りませんでしたが、
この場所を訪れて、作家の意志をも越えたところにある
物とその配置の内的必然がもたらす秩序を感じることができました。
とても安心できる、守られた空間なのです。


でもそれを安易に「自然との調和」などと言ってはいけないことがすぐに分かりました。
北入口から時計回りに回って戻ろうとしたとき、
眼に飛び込んできた唖然とする光景。



写真だと分かりずらいですが、
あと一回豪雨でも降れば崩壊しそうな地すべりの跡です。
むしろ、土砂や押し倒された木々がここまで流れ落ちてきてもおかしくないのに、
かろうじてその一寸手前で時間が止まったような緊張感。

「地すべり対策」というのはこのすべてを押し流そうとする自然の力に抗すること。
地形を知り、耐久性のある鉄やコンクリートといった素材を使うのはもちろんですが、
ときに破壊的な力で迫って来る自然に、人間の意志で秩序を与え返すというのは、
並大抵の力量ではできないことだと実感しました...。

ちなみに、その後大学で出席したゼミ発表でこんな知識を得ました。
幸田露伴を父にもつ女流作家幸田文(あや)の随筆に『崩れ』(1991年)というのがあり、
70を越えた老女文が日本全国の地すべりの跡を訪れ恍惚に浸る様を描写しているそう。
おそろしいですね。






せっかくなので、室生寺にもお参りすることに。
かつて女人の参拝を禁じた本家高野山にたいして、
それを許した室生寺は女人高野と呼ばれるようになったのだとか。
この日も大勢の女人の方々がいらっしゃっていました。




こちらの五重塔は奈良時代後期に建立されたもので国宝。
日本で一番小さい五重塔だそうです。



こちらも国宝の弥勒堂。 


金堂では何と特別拝観の時期で、
国宝十一面観音像をはじめ、中尊 釈迦如来立像、薬師如来立像、
そして運慶作と伝えられる十二神将を
金堂の中に入って近くから拝むことができました。





帰り道に、大野寺にも立ち寄りました。
行きのバスから宇陀川の向こうに見えた磨崖仏が気になったのです。
高さ11.5mの弥勒仏立像。写真ではさっぱり見えませんが、
岩肌に描かれた仏の線刻の清々しさ、しかも1207年の制作、
見事としか言いようがありません。




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