東京でドタバタ生活を送っていた頃、
井の頭線や田園都市線に揺られながらよく
内田百閒の『阿房列車』を読んでいました。
そして、私も山系くんみたいなあやふやな人を連れて、
何の目的もなく列車に乗ってどこかへ行って、宿で居合わせた人々と一献して、
お昼頃まで眠った後、お座敷でごろごろしながら庭を眺めて、
何に急かされるでもなく家路に着くという、
そんなお出かけをしてみたいと思ったものです。
パリに来てからは、自分のペースで研究を進めるという生活なので、
たっぷりある時間をほんの少し割いて阿房列車のまねごとをしたいところなんですが、
現実的に考えると、宿に泊まって一献、となるとしかるべき資金も必要になります。
あいにく花の都パリで苦学生を強いられている私には金銭的な余裕がないため、
宿と一献はあきらめて、日帰り阿房列車を敢行することにしました。
今回の目的地は、パリからRERという郊外鉄道のA線で約30分のところにある
Saint-German-en-Layeという小さな街です。
阿房列車は目的がないのが前提なのですが、
百閒さんも用事をひとつくらいは作っているときがあるので、
私も今回はモーリス・ドニ美術館に立ち寄るということだけ決めて、
後は気の向くままということにしました。
旅の同伴者は、山系くんのイメージからはほど遠く、
5年前の留学のときに出会って、今ではすっかり親友になった韓国人の美女です。
Saint-German-en-Layeの駅を降りると、大きなお城と教会があり、
その間の道が街へと通じています。
商店街は小さなお店ばかりだけど、ショーウィンドーのクオリティーが非常に高い。
くるんとした街灯、パステルカラーの街並み。
ケーキ屋さんには、なぜかペコちゃんが。
色々なお店を見てぷらぷらしながら、
街の中心地を抜けて坂を下ると、モーリス・ドニ美術館が見えてきます。
ここは、ドニがアトリエ兼邸宅として住んでいた場所。
裏手には樹々が生い茂る庭が広がっています。
美術館の入口。
「モーリス・ドニとブルターニュ」展を開催中。
2年前に紀要執筆にあたって調査した出生通知状も展示されていました。
子供や孫が生まれる度にドニが知人たちに送っていたリトグラフのカードです。
この美術館の見所は、敬虔なカトリック教徒であったドニが自ら手がけた
礼拝堂のステンドグラスや壁画。ブルーでまとめられた静謐な空間です。
こんな窓がある小部屋に住みたい。
私があんまりのんびり見ていたので、待ちくたびれた同伴者は
アトリエコーナーでお絵描きを始めてしまいました。
庭の彫刻。これは...誰の作品だったかな。外壁を覆う深紅の蔦に思わず息を飲みました。
青々と茂る竹。
ナビ派の絵に出てきそうな、ちまっとした感じに写っていてお気に入りです。
彼女は映画女優のような佇まい。
オレンジ色に紅葉した木と、青い門。
帰り道、迷ったおかげで出会うことができました。
一献はあきらめたので、ココアで一服。
一日中天気が悪かったけど、夕方になって太陽の光が雲を透過していました。
ハロウィーンの飾り付け。中では子どもたちがお菓子作り。
こういう白いもこもこした犬を見ると、
心の中で「マシュマロ犬だ」と唱えてしまいます。
阿房列車なのに列車の写真を撮り忘れました。
かわりに、ちょっと失敗したけど車窓風景を。
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