8/12/2012

Le Manでの宝探し


フランス西部、自動車の耐久レースで有名な都市ル・マンに
通訳兼ガイドのお仕事で訪れました。

パリから日帰り、ル・マンでの滞在時間はわずか4時間です。
目的は、この街に寄贈された新潟県十日町市出土の火焔型土器(国宝)
レプリカに再会すること。

12年前には盛大な寄贈セレモニーが開かれたようですが、
そのときのル・マン市長さんもすでに世を去り、捜索は難航を極めました。

現在の所在がインターネットにも出ていなかったので、
とりあえずタクシーの運転手さんに尋ねてみますが、
博物館はたくさん有り過ぎて分からないよと....

仕方がないので旧市街の辺りで降ろしてもらい、
12年前の記憶を辿りながら、街を歩いてみることに。
道行く人に聞いても、やはり分からず....
ただ、アドバイスに従って旧市街を登っていくと観光案内所に出ることができました。

そこで土器の写真を見せながら案内を乞うと、
ガイドのおじさんが親切にも博物館に電話をかけて聞いてみてくれました。
しかし、つい最近まで企画展覧会で展示されていたけれど、
今はもう撤去されてしまったという悲しいお知らせが....そんな...

とにかく、その博物館まで行ってみて、学芸員さんに交渉するしかありません!
博物館が建っているのは立派な大聖堂の裏手。


勇んで博物館の受付に押し掛け、お姉さんたちにおずおずと写真を見せて
希望を伝えると、あろうことか、これはここに展示されたこともないわよという答え。
頭のなかは「???」....さっきのおじさんの電話は何だったの....?
いずれにしても、その博物館にはガロ・ロマンの遺跡はたくさんあるけれど
(ル・マンは古代ローマ時代からの歴史ある街)
日本の土器はないというお話。


お姉さんたちは、途方に暮れた私たちに、12年前のセレモニーが開かれた
教会に行ってみては?と提案してくれました。


その教会は博物館からとても近い場所にありました。
手がかりを求め、すがる思いで向かった私たちを待ち受けていたのは、
残酷にも固く閉じられた扉....

ル・マンに到着してからすでに1時間が過ぎ、振り出しに戻ってしまった宝探し。
雲ひとつない晴れ渡った空の下、さすがに諦めの色がよぎります。

日本からロンドン経由でこんな場所まで来て、土器に辿り着けなかったら、
いくらただの通訳ガイドとはいえ、さすがに責任感を感じてしまいます....

そんなとき、背後から現れたのはなんだか街の事情を心得た金髪のマダム。
扉をぐいぐい押す私を見て、ここが開くのは14時からよ、
日本の土器を探しにきたの?それならこの上の市庁舎に行ってみなさい。
と有難い助言をくれました。


確かに、市に寄贈したのだから市庁舎で聞くのが一番かもしれません。
石の階段を登り、市庁舎の正面に出ると、ちょうどお昼休みを終えて開いたところ。

ところが、受付にいたのはまだ若い青年で、
土器の写真を見せても、ぴんと来ない様子....
Musée de Tesséじゃないかな...といいつつ根拠も自信もなさそう。
でも、行ってみるより他に仕方はありません。

とりあえず 市庁舎前の広場のレストランで腹ごしらえ。
ココット料理専門のお店で、おいしいランチとワインをいただきました。
カラッと晴れた日のテラスでの食事は気持ち良く、
元気を取り戻しました。

そんな食事中、ひとつ浮かんだ妙案。
持ってきたアルバムの中に映っている人物がまだ市庁舎で働いている
らしいから彼を訪ねてみようと。
12年前、セレモニーの場にいた人なら確実な情報を握っているに違いありません。

かくして再び受付に戻ると、今度はマダムが対応してくれました。
彼ならいるわよ、ちょっと電話してみるから待ってねとあっさり取次いでくれて、
あぁ、もうこれで大丈夫だと一安心。

迎えに下りて来た秘書の女性がオフィスに通してくれて、
今はル・マン市の文化振興を担うその人物は、
アルバムの写真を見せると、とても懐かしそうに思い出話をしてくれました。

そして土器の所在も判明。やっぱり最初のお兄さんが
教えてくれたとおりMusée de Tesséで間違いありませんでした。
(お兄さんごめんなさい)
すぐに電話で館長に話を通してくれ、意気揚々と美術館へ。




立派な建物のこの美術館は、エジプト美術とルネサンス〜近代絵画を所蔵しています。
受付で目的を告げると、左手の入口へ案内され、
すぐ脇の展示ケースに、土器が展示されていました。

安堵の瞬間....事前に何の情報も得られず、とにかくル・マンまで来て、
人づてに2時間半近く彷徨い、ようやく辿り着くことができました。
目的が果たせて本当に良かったです。

やがて館長さんも降りてきて美術館の中を案内してもらいながら歓談。
この館長さんが、フランス人とは思えないくらい親切でにこやかな方で、
心地よい旅の締めくくりとなりました。


何でもインターネットで調べてから行動してしまう昨今、
こんなスリリングな宝探しもたまにはいいかもしれません。



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