8/05/2012

ポンピドゥー リヒター:パノラマ展 2012


今や現代美術の大御所、ゲルハルト・リヒターの展覧会をポンピドゥーで開催中。
ベルリンのノイエ・ナショナルギャラリーからの巡回です。

1932年生まれだから、もう80歳になるんですね。
回顧展と呼ぶにふさわしく、初期の60年代から現代までを網羅する内容。
世界中の美術館はもちろん、プライベート・コレクションも含めた約150点が展示され、
さまざまなシリーズの展開を追う構成です。

ちなみに、ポンピドゥー・センターがオープンした1977年に
リヒターはすでに個展を行っているので、今回の展覧会は両者にとって記念すべきもの。


リヒターの名を一躍有名にした「フォト・ペインティング」
自分で撮影した写真や報道写真をぼかすような技法で描いた油彩画で、
近くに寄ると筆のタッチが見てとれます。





雲を描いた3点が素敵でした。 
無定形の曖昧なイメージをカンヴァスに定着させるという矛盾を内包した作品。


奥に見える多くの色を並べたシリーズは「カラー・チャート」と呼ばれます。

次の展示室には「アブストラクト・ペインティング」の作品群。
鮮やかを通り越して毒々しい原色がまだらに画面を覆っています。
ペインティングナイフで絵具を押し広げたようなマチエール。 


雲といい、蝋燭といい、形ないものを描くと本当に見事です。
写実と言ってしまえばそれまでだけど、そうではない。
むしろ雲とか蝋燭といったモチーフは、
不確かなものを描くために召還されているのだと思います。




低く雲がたれ込めた街並み。遠方にはサクレ・クール寺院。
ポンピドゥ・センターのエスカレーターや展示室の窓から眺める景色が、
一番パリを間近に俯瞰できる気がします。



展示室の所々に置かれたガラスのオブジェ。

続いては「グレイ・ペインティング」のシリーズ。
この鋭角の展示室が、全体のアクセントになっていました。



最初は、あまりにも点数が多い 「アブストラクト・ペインティング」に
居心地ならぬ眼心地の悪さを感じていたのですが、
しばらく見ていると、ふっと、リヒターは「フォト・ペインティング」から
それほど離れていないんじゃないかという気がしてきました。
見えるものの境界を問うような仕事。





展示構成の後半では、肖像画のシリーズや、 
1977年10月18日のドイツStammheim刑務所での3人の若者の死を
報道写真をもとに描いたシリーズで構成され、
再びモチーフのある絵画に戻ってきます。






私は2005年〜2006年の金沢21世紀美術館と川村記念美術館での
彼の個展を見逃していたので、まとまった作品を見たのはこれが初めて。

今年のアート・バーゼルでもたくさんの小品が売りに出されていましたが、
やはり大作を一挙に見られる機会があってよかったです。

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