すっかり書くのが遅くなり、もう会期は終わってしまいましたが
Pompidouで開催されていたEdvard Munch L'Œil Moderne 展。
ノルウェーの画家ムンクの大回顧展です。
なぜか写真撮影OKだったので、セノグラフィを中心に展示風景を記録。
といっても人が多くてほとんど見ているお客さんの後姿の写真になってしまいました。
展示室に入って一部屋目には何の解説もなく年代も主題もばらばらの作品が数点。
どういう構成なんだろう...?と二部屋目に足を踏み入れると一瞬で謎は解けます。
こちらが二部屋目。左側の壁の作品を見比べてもらえると分かるでしょうか。
そう、一部屋目で見た数点とほぼ同じ構図の作品たちが同じような部屋の
同じ場所に掛けられているんです。
ムンクが、時を隔てて同じ主題を繰り返し描いたことを示すための工夫。
心憎い演出です。
三部屋目はムンク自身が撮影した写真の部屋。これが本展の見所のひとつでもあり、
展覧会タイトルが「L'Œil Moderne[近代の眼]」と題された所以でもあると思います。
デジタル化の波に乗り遅れ、つい先週経営破綻してしまったという老舗コダックの
カメラを愛用していたムンク。同時代のドガやボナールもそうですね。
コダックの小型カメラが19世紀末〜20世紀初頭の画家達の「近代的な視覚」の形成に
一役買ったことは間違いありません。
ムンクが親しい人々や自宅、自身の姿を写した小さなスナップ・ショットは
黒い額縁に収められ、ダークグレーの壁の薄暗い空間に
スポットライトで浮かび上がっていました。
とても美しい展示です。
そして四部屋目の入口には覗き窓。もちろん窓の中に見えるのはムンクの絵です。
美術館のようなある程度統一された展示空間でも、
作品が自分の視覚に入って来るシチュエーションは様々ですが、
こういうのも面白いなと思いました。
この部屋はムンクの作品に見られる独特の奥行き感覚に焦点を当てた展示。
切り倒された木の幹を描いた作品ですが、
最初に一目みた瞬間は光の球が転がり落ちてきているように見えました。
画面の周縁部に置かれた人物。ボナールにも頻繁に見られる構図です。
当時パリのギャラリーではムンクの展覧会が開催されていて、
ボナールはおそらくそれを見ていたと思うので、何らかの影響関係があるかもしれません。
これは解説パネル。マット装のように関連資料が埋め込まれていてかっこよかったです。
モデルのRosa Meissnerを繰り返し描いた作品群。
写真に映っている意外にも数点展示されていました。
グレーの壁と赤い床というのもインパクトがありつつ、
作品鑑賞を妨げない良い方法だなと感心...。
このあたりが中盤になります。
世界を溶かすような灼熱の太陽、優しい夜空。
前景の影の入り方も、やっぱりボナールに通じるものがあります。
晩年ムンクは眼を病んでいますが、もしや直射日光の見過ぎが原因では...
と思うくらい堂々と真正面から捉えられた太陽。
小さなデッサンはランダムな展示。
室内画、外の世界などを巡って最後に自画像という、
展覧会の構成としては比較的オーソドックスな流れ。
正面から見据えるのではなく、あたかも体を捻ってこちらに振り返って
自身を見つめ返しているかのような自画像。
今回一番興味深かったのが、ムンクが病を患った自身の眼で見た世界......
というよりは眼球そのもの、その内部とも外部ともつかぬような不思議な
イメージを描いた晩年のデッサンです。
自身の“眼”、画家にとっての究極の自画像ですよね。
人ごみを避けながらゆっくりと作品を見終えて外に出ると、
すっかり日も落ち、雨に濡れたパリの石畳に街灯が反射して、
いつもよりも少し幻想的に見えました。
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