先日訪れたパリの古書店で、
念願叶って
ボナールのリトグラフの本を入手しました。
美術評論家Claude Roger-Marxのテキストが添えられた版画集は、
ボナールの死後、かのMourlot兄弟によって刷られたもの。
奥付けには、画家が用いた技法、石版の数、インクの種類など
忠実に再現したとの言葉。
フランス国立図書館の版画閲覧室でひとめ見て以来、
刷りの美しさに感嘆し、
いつか自分の手元に置けたら...と夢見ていました。
でも、オリジナルでないとはいえ、
画家たちの信頼厚い刷師が手がけた版画集。
古本サイトで検索してみても400€〜1000€の値段が付いていて
とても手が届きそうにないなぁとあきらめていました。
それが、ある日ふと思い立って同サイトで検索していると、
何とパリ16区の古本屋で、50€で売られているではありませんか...!!
でも、他店と比べてあまりにも値段が違い過ぎるし、
半信半疑で行くだけ行ってみることに。
辿り着いたのは、立派な門構えの古書店。
扉を開けて中に入ると、ガラスケース付きの本棚に収められた
貴重書がずらり。
どちらかというと、良質の古書を高めの値段で揃えていそうなお店です。
ともあれ、奥から出てきたお姉さんに
この本を探しに来ましたとおずおずと文献カードを見せると、
突然の珍客に驚きつつも
パソコンでぱぱっと検索してさっと本を出してくれました。
ケースに収められた版画集は、
表紙も中身もしみや折れひとつない完璧な状態。
思わず、この本の素晴らしさをお姉さんに切々と語ってしまいました。
しかし、本当に50€なの...?と不安に思いつつ、
表紙の裏に貼ってあった付箋を見ると
案の定、"450€"の数字が。
ところが、
それに気付いてしょんぼりしてしまった私を見たお姉さんが、
「待って、その付箋は間違っていることもあるから」と
再度パソコンで確認するという予想外の行動に。
そうして、
「あら、数字が多かったわ、50€よ。これなら買えるでしょ。」とにっこり。
お姉さんは間髪入れずに付箋の"4"を消しゴムで消してしまいました。
でも、どう考えてもパソコンの"50€"が入力ミスなのに...と
どぎまぎしている私に口を挟む隙も与えず、
何で払う?と支払いを促し、
「あなたみたいな人が来たのは私にとってもcoup de foudreよ」
と笑いながら、あっさり版画集を売ってくれました。
古書店にいたのは、ほんの10分程度。
何だかわけが分からないまま
たったの50€とひきかえに夢の版画集を手にし、
しっかりと胸に抱きかかえて来た道を戻りながら、
ぼんやりとした私は、ようやく
お姉さんの優しさをじわじわと理解しました。
何度見ても美しい色合い...
一生大事にしたいと思います。
Yukikoさま
返信削除お久しぶりです。
都内の大学でボナールを研究しているShinです。以前一度だけこのブログにコメントさせていただいたのですが覚えておいででしょうか?
Roger-Marx編の版画集は存在だけ知っていたのですが、手元にBouvet編のレゾネがあるので確認していませんでした。まさかムルローによるリトグラフの複製だったとは!
Yukikoさまの幸運がうらやましい限りです。本当にいい古本屋さんがいるものですね。
私も去年、リヨンの古本屋でGeorges Bessonの文章が入った1920年代の小さな版画集(ボナールだけのものではなく、マティスやブラックも入っている)を見つけ、そこの店員さんと話していると「日本人が自分のことを研究しているなんて知ったらボナールもきっと喜ぶよ」と言って半額にしてくれました。もっともそれでも手が出ず、結局Pierre Courthion著のモノグラフだけ買って帰ったのですが。
それはそうとそろそろ私も修論の執筆にかからないといけない時期になってきました。まだ草稿を練っている段階で内容の変更はこれからも出てくるでしょうが、ポンピドゥー・センターにあるL'Atelier au mimosaをボナールの窓モティーフの流れの掉尾であり、かつ晩年ル・カネ時代の代表作と位置づけて考察していくつもりです。
Yukikoさまの修論も参考として読んでみたいと思ってますし、いくつか探している資料もありますので、よろしければお時間のあるときに下記のアドレスにメールを頂けますでしょうか?
本当にいきなりですいません。またよろしくお願いします。
bonheurdevoir@gmail.com
追伸:新しく作ったアドレスなのですが、ボナールを研究している方には元ネタが分かってしまうでしょうから少々恥ずかしいです。