いつか行こう行こうと思って先延ばしになっていた
Pompidou-Metzをついに訪れました。
ドローイングの展覧会を開催中だったのでこの機会に。
オープンが2010年5月だから開館してもうすぐ3年になるんですね。
坂茂とジャン・ド・ガスティーヌ合作による
インパクトある建築と「Chefs d'œuvre [傑作]?」と名付けられた展覧会で
話題を呼んだのが記憶に新しいですが、
時を経た現在の姿を目の当たりにして、
少しせつない気持ちになりました。
ところで、MetzはPompidouの別館だけの街ではありません。
紀元前1000年のガリア人の時代にまで遡る歴史を持ち、
6世紀にはメロヴィング朝フランク王国の都として栄え、
カロリング朝、神聖ローマ帝国への統合を経て、
17世紀半ばにフランス領になり、
その後はフランスとドイツの統治のあいだで揺れ動いた
という過去があります。
メロヴィングやカロリング....世界史で習ったなぁ...
12時頃に駅についてまず向かったのはもちろんお昼ごはん。
今回の旅は方角に強いパディントンさんが一緒なので、
わたしはすっかり安心してのほほんと着いて行きました。
レストランに向かう途中で立ち寄ったSt Maximin教会。
12世紀から15世紀にかけて建造されたロマネスク建築で、
中に入ると薄蒼い光がにじむ小さな礼拝堂のよう。
現在のステンドグラスはジャン・コクトーの手によるもの。
1960年代末頃に設置されたそうです。
ランチのレストランはばっちりリサーチ済み。
家族で経営するアットホームなお店La Table de Polです。
日替わりのメインとデザートで17€くらいだったかな。
メインのlieu noir[ポラック]というタラの魚料理もおいしかったし、
何よりも嬉しかったのはこちらのデザート。
ロレーヌ地方の名産ミラベルというスモモ科の果物の
コンポートとマスカルポーネチーズに
砕いたスペキュロス・クッキーをふりかけた一皿。
素朴でやさしい味わいで幸せな気持ちになりました。
ランチの後は近くにあったドイツ人門まで足をのばすことに。
付近にドイツ騎士団の病院があったことからこの名が付いたそう。
13世紀から15世紀にかけて建設された中世の門で、
Seille川にかかる橋の役目も果たしています。
2つの塔と弓矢を構えるための銃眼、
そして石を落すための突出し狭間をそなえた堅牢な要塞。
写真にも悲愴感が漂っていますが、
筆舌に尽くし難い寒さでした。
寒さと時間に追われるようにPompidou-Metzへ。
平日ではあるものの人影はまばら。
フランス国内の地方美術館では動員数1位を誇っていますが、
ルーヴル・ランスがオープンしたので順位に動きがあるかもしれませんね。
構造としては、1階にGrande Nefと呼ばれる大きな展示室があり、
その上にコンクリートでできた長方形の3つのギャラリーが
ランダムに乗っかっているというもの。
それをエスカレーターを内蔵した鉄塔がつないでいます。
木組みの屋根には、
驚くべきことにテントの布のようなものを張ってあり、
その正体はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、通称テフロン、
そう、フライパン表面のコート塗装によく用いられている素材です。
ともあれ、詳細はwikipediaをごらんください。
天井の網目模様が美しかったです。
坂氏がパリで買った中国の帽子からインスピレーションを得たのだとか。
ひとつめの展覧会は「Une Brève Histoire des Lignes[線の短い歴史]」
1948年生まれの社会人類学者Tim Ingoldの著作 Lines : a brief history を着想点に
1925年から現代までのドローイング作品を集めた展示。
「人間や物事の研究は、それらが成す線の研究である」という
Ingoldの言葉を引きつつ、
バウハウスの教授陣、とりわけカンディンスキーによって
試みられた線の分類学を皮切りに、
歩行の痕跡を辿った線、
身体や空間を測定する手段としての線、
潜在的に感知される亡霊のような線、
文字と線、
手相に象徴される生命の線
という章立てで展開されます。
解説文がやや抽象的になり過ぎるきらいがありましたが、
PompidouのCabinet d'arts graphiquesとカンディンスキー図書館の
コレクションから大放出された
作品自体は興味深いものが多かったです。
左手のケースにはカンディンスキーが理論書Punkt und Linie zu Flächeのために
描いた直筆のドローイング。
潔く引かれた線かと思いきや、修正液で慎重に線を整えた跡が。
でもいまカタログを見たら、図版では修正液の部分が消されています!! なぜ...
ChristoのRunning Fenceプロジェクト。
Alfred Manessierの墨のデッサンが何だか良かった。
Joel Fisherの巨大なドローイング。
Sans Titreとなっていますが、一目でわかりました、犬だと。
カンディンスキーの手。思わず自分の手を重ねてしまいました。
大きかった。
それにしてもどうして緑色なんかにしたんだろう。
会場はブラック&ホワイトの壁でシックに決まっていました。
続いて、2つ目の展覧会はSol LeWittのWall Drawings。
ヨーロッパでは最大規模の回顧展だそうです。
全面ガラス張りの窓が爽やか。
この巨大なドローイングを完成させたかと思うと
(あくまでも勝手な妄想です)
(あくまでも勝手な妄想です)
胸が熱くなりました...。
Daniel Burenのプロジェクト「Vue Plongeante[俯瞰]」
ちょっと...いやかなり微妙でしたね。
美術館を出て再び極寒の街へ。
目指すは大聖堂。
復活祭目前ということで、街のお菓子屋さんにはうさぎの
オーナメントが溢れています♡
オーナメントが溢れています♡
このサン・ルイ広場の古い建物が美しかったです。
素敵な路地裏。
やがて目的のSt Etienne大聖堂に。
1220年から1552年にかけて建設されたゴシック建築。
身廊の高さは42m、世界でも最も高い中世建築のひとつです。
大きさの秘密には、二つの教会を一つにしたという
経緯もあるとのこと。
写真では全く伝わりませんが、この高さは初体験。
総面積6500m2のステンドグラスから降り注ぐ
光の感覚も影響していたかもしれません。
おもわず、
かのサン=ドニ大聖堂の修道院長シュジェール(1081-1151)
に思いを馳せてしまいました。
シュジェールは擬ディオニシウス=アレオパギテス(5世紀)の
『天上位階論』を解釈し、
教会内部に劇的な光を取り入れたことにより
ゴシック様式の祖とされています。
St Etienne大聖堂も各時代の巨匠たちによる
ステンドグラスで彩られていますが、
私たちに最も馴染みがあるのはやはりシャガール。
ブルーとイエロー、2種類のステンドグラスがありました。
他にもキュビスムの画家Jacques Villonのステンドグラスもありました。
大聖堂はJaumontという黄色がかった石灰岩で覆われていて、
Metzの街並みのほとんどがこの同じ石で作られています。
馬のガーゴイル。
大聖堂の奥にはモーゼル川とタンプル・ヌフ教会。
右手にはフランス最古のオペラ劇場が建っていました。
河沿いの建物にはなぜだか心惹かれてしまいます。
街中に戻り、ラブレーが2年間滞在したという礼拝堂の前を通り、
頭の家(あまりの寒さに写真を撮る気力もなく...)を見て、
駅に戻りました。
ドイツ統治時代に建設された立派な駅舎。
最後に夜のPompidou-Metz。
少年のような好奇心溢れるパディントンさんと、
何だってすみずみまで見たい願望を持ったわたしとで、
凍える寒さのなか、かなりの距離を歩き回って街を散策しました。
行きのTGVでは印刷物のデザインの話で盛り上がったけど
帰り道はぐったり...
ともあれ2人とも風邪をひかなかったので
めでたしめでたし。
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