3月半ば、ケースマイケルのダンス公演とルーヴル・ランスを目的に
再び冬のリールへ。
カメラを持って行ったにもかかわらず
中身の電池を忘れるという失態を犯したので、
写真ではなくイラストの旅行記となります。
あしからず...。
あしからず...。
前回とは異なるゆったりとした滞在で、
リールの街並みや食文化も楽しむことができました。
チョコレートとフランボワーズのケーキに、
ピスタチオとさくらんぼの砂糖漬けのゴーフル。
風味豊かな紅茶とともに、贅沢なひとときでした。
サロン・ド・テは真っ白の壁にシャンデリアのメルヘンなお部屋。
でも若い女の子でもなく、マダムでもなく、
おじさまが一番の顧客です。
ケーキをぱくぱく食べている様子、可愛かった。
ケーキをぱくぱく食べている様子、可愛かった。
リールはMeertの他にも街中にお菓子屋さんが溢れていて、
ひょっとするとアルザス地方よりも
激戦区なのでは...
1ヶ月くらい住んでみたいものです。
夜はリールのオペラ座でケースマイケルのRosas danst Rosasを見ました。
日常の動きを取り入れたダンスに、
リズミカルな反復、
4人のダンサーたちの動きの組み合わせと切り替わりの鮮やかさ、
ドラマチックな音楽、
今まで見たコンテンポラリー・ダンスのなかで
一番楽しめた作品だったかもしれません。
とりわけ、舞台両脇に鏡を置き、
上からのスポットライトを反射させて
ダンサーの身体を浮かび上がらせる照明が
とても効果的でした。
公演が終わるともう夜の10時近く。
お腹が空いていたので、
市街地のレストランで簡単な夕食を取ることに。
フランドル地方の名産、カルボナードという牛肉のビール煮込みと
ムール貝の白ワイン蒸し。
どちらもベルギービールに良く合いました。
何の変哲もない観光客向けレストランの料理だったけど、
なんだかとてもおいしく感じました。
今回泊まった宿は、街はずれにある素敵なアパルトマン。
古い建物を改装して、
スタイリッシュな家具が置かれた部屋は
なかなかくつろげました。
ここにずっと住みたかったなぁ。
2日目は、念願のルーヴル・ランスへ。
リールからランスまでは電車で40分ほど。
リールからランスまでは電車で40分ほど。
極寒だと聞いていたけど、まったくその通りでした...。
実際の気温の低さに加えて、
寂れた田舎町の寒さが身にしみます。
7年前の冬にひとり訪れたクールベの故郷オルナンの
記憶が蘇るよう。
ひとつ言えることは、ランスもオルナンも、
真冬にひとりで行くところではありません。
昨年12月にオープンしたばかりのルーヴル・ランス、
建築家は言わずと知れたSANAAです。
庭は思いっきり工事中でしたが、
建物はきっちり仕上げられていました。
写真を見て白っぽい外観を想像していたのだけど、
実際にはメタリックな素材。
四角い箱がいくつか連なっていて、
エントランスの箱は全面ガラス張りでした。
SANAAの建築の向こうには、三角形のぼた山という乙な景観。
そう、ランスは炭坑で栄えた街という歴史があります。
残念ながら企画展示室は閉まっていたので、
Galerie du temps[時間のギャラリー]をじっくり見ることに。
展示室に入った瞬間、
空間の軽さに少なからず衝撃を受けました。
距離感がうまくつかめなかったからかな。
ルーヴル宮殿の
グランド・ギャラリーも
実際にその場に立ってみると
意外と軽やかな印象を受けるんですが、
それとは比べ物になりません。
展示室の名前のとおり、
ここでの展示のテーマはただ時間というそれのみ。
ルーヴル美術館が所蔵し、
これまで展示されてこなかった作品、
あるいは本館から移動させられた作品が、
年代順に散りばめられています。
考えてみると、あらゆる芸術作品がそれぞれの時代に
属しているのは当然のこと。
ある程度バランスを考えて選ぶという作業はあったかもしれませんが、
古代ギリシャ・ローマ、西欧諸国、イスラム、インドといった
さまざまな文化圏を背景にもつ作品が
ほとんど恣意的に並べられています。
でも、
壁に刻まれた数字や空間の奥行き、作品の重なりによって
眼前にふわっと出現する時間の層と、
その中を歩き回る経験は
感動的ですらありました。
キュレーションを封印して、
ひとえに建築とセノグラフィによる演出がなせる技。
ジョルジュ・プーレの言葉を借りるなら、
まさに「時間の空間化」といえるでしょうか。
ヴァレリーやプルーストがこの展示室を訪れたら、
何と言うか聞いてみたいな。
ところで、この作品の迷路を彷徨っていると、
最初当惑した軽さが徐々に輪郭を帯びてきました。
まずは壁面。
メタリックでありながらもかすかに周囲を反射する
やわらかな表面で、
常に他の作品や人々の気配といった周囲の広がりを感じさせる
独特の浮遊感を生みだしていました。
そして天井。
構造を正確に説明できないのですが、
自然光を拡散して取り入れつつ、
照明器具をうまく隠していて、
光がたゆたう天井それ自体が美しいものでした。
おそらく季節や天候によっても表情が変わるのだろうと思います。
ところで、ランスに行く際に一番悩ましいのが食事。
美術館にカフェはあるのですが、軽食とデザートのみ。
しかも週末は混雑が予想されます。
暖かくお天気の良い日なら、
サンドイッチを持って行ってピクニックも良さそう。
ランスのメインストリートにはパン屋さんが何軒かありました。
ただ、メインストリートといっても寂しいもので、
この通りにレストランはほぼ皆無。
時計塔のある教会前の広場に数軒ある程度です。
わたしは予約した電車までの約3時間を
極寒の夜ひとりで過ごさないといけなかったので、
くつろげそうなお店を必死で探し、
そうして見つけました。
まさに灯台下暗し、ルーヴルに行くのとは反対側の駅前の通りにある
小さなレストラン Le Pain de la Bouche です。
外観や内装もこだわっていて、
サービスのおじさんやお兄さんもとっても親切。
そしてこの地方の名物らしいFaloucheという、
ふわふわのパンに野菜やハム、チーズをのせて焼いた料理が
シンプルながらも味わい深かったです。
私はドライトマトとキャラメリゼしたオニオン、
山羊のチーズにはちみつ、ルッコラのFaloucheを頼みました。
地元の白ワインもすっきりとした甘みで美味。
おそらくランスで唯一といっても過言ではない
素敵なレストラン。
ランスに行かれる方はぜひ立ち寄ってみてください。
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